4月22日(水)、外国人記者クラブにて鳩山元総理の記者会見が開催されました。「鳩山さんは宇宙人」、「一体何を考えているんだ。」、「元総理が外国に出かけて行って好き勝手に喋られては困る。」と思っている方、多いでしょうね…。私も一体鳩山さんは何を考えているのかと不思議だったので本人の言い分を聞いてみようと出かけました。感想としては意外とまとも(失礼!)でした。長くなりますが以下の通りです。
・なぜクリミアに行ったのか。
鳩山はなんでクリミアなんかに行ったのかと思っている方が多いと思う。それは日本が真の独立国であってほしいという思いからだ。
鳩山家では祖父の頃から日ロ関係についての話をしてきたのでロシアへの関心は強い。私はプーチン大統領の時に北方領土問題を解決しなければならないと思っている。安倍・プーチン会談は6回あったので交渉の進展を期待していた。ところがクリミア問題でアメリカに追随しロシアに経済制裁を加えた。去年9月にモスクワを訪問した時、国会議長が制裁は残念だ、プーチン大統領の訪日日程が決まらないのは「もったいない」という言い方をした。日本はアメリカに従うべきだったのか、制裁を続けるべきなのか、私は現地を見てきたいと思った。
・ウクライナの現状について。
外務省と政府は米国から提供された情報は常に正しいと信じている。しかしウクライナについての米国の情報は必ずしも正しくない。こうした見方は日本では報道されない。
ウクライナ問題はプーチン大統領がソチオリンピックで忙しい時に欧州と米国が色々仕掛けたこと、特にネオコン(軍産複合体)の動きが背景にある。ロシアから見ればウクライナのヤヌコビッチ大統領は非合法に追放された、これは見方によれば市民運動が政府を倒したということになる。しかしオバマが正義でプーチンが悪だという対立軸で見ることは正しくない。外からは市民活動派と政府が対立して死者が出ていると見えるが、実際には同じ銃弾で双方が倒れているというケースがある。現地に行かなければわからないことだ。
ウクライナの新大統領は国民のウクライナ化を求め、閣僚の中にはネオナチがいる。彼らはロシア語を公用語から外すと決めた。クリミアはロシア語を話す住民が5割いるのでロシア語が公用語でなくなると公務員になれない。だから住民投票に行って9割がロシアへの編入を求めた。住民投票の1年後にクリミアに行ったが戦車も兵士も見かけなかった。つまり力で制圧しているという印象はない。クリミア大とモスクワ大のクリミアキャンパスで講演したが学生はポジティブだった。ロシアとなったクリミアが好転している現実を理解すべきだと思う。
9割の住民投票率が意味を持つと言っているわけではない。少数民族タタール人の投票率は55%だった。それでも7割はロシアへの編入に賛成した。そもそもクリミアは18世紀後半からロシアだったので、再びロシアになったという認識でしかない。今クリミアは平穏を取り戻している。2月に東ウクライナの暴動に関する停戦合意がミンスクであったが合意文書に「クリミア」という言葉はなかった。独仏、つまり欧州ではクリミア問題は解決済みという扱いだ。日本はアメリカに追随せずロシアに対する経済制裁を解除すべきだ。
先日、元外務官僚の東郷和彦氏と話したが、日米首脳会談で安倍総理はオバマ大統領にウクライナ問題を切りだすべきだと言っていた。彼は経済制裁が続けばロシアは急速に中国に近づく、これはアメリカにとっても日本にとってもよくないと言っている。
Q.クリミア問題は現状を力によって変更することが問題視されているのだがいかがか。また北方領土や尖閣諸島の問題をどう考えるか。
A.クリミアと北方領土を関連付けた時、クリミアに対する力の行使を認めると北方領土問題で不利になるのではないかという趣旨だと思う。しかしこの2つは全く違う。クリミアはもともとギリシャの植民地であり、露土戦争(ロシア対トルコ)の後はロシアになった。ソ連邦の中でフルシチョフの時代にロシアからウクライナ共和国の帰属に変わり、ソ連邦が崩壊してウクライナが独立したのでウクライナの一部になった。1991年、ソ連邦が崩壊した時に住民投票がありロシアへの帰属を求めていたが、この時はロシアに無視された。先日スコットランドで住民投票があった。昨今、地域の自己決定権が大事になってきて民主主義を認めるべきという風潮がある。では北方領土はどうかと言えば、ここはもともと住んでいた島の住民が追い出されたので全く事情が違う。だからクリミアのケースは当てはまらない。尖閣についは無人島なので、1972年に田中―周恩来が合意した「領土棚上げ」に戻るべきだと思う。
Q.安倍総理の70年談話についてはどう考えるか。
A.「植民地支配」、「侵略」、「お詫び」がキーワードだが、安倍総理は「お詫び」を好ましくないと思っている。米国や他国は安倍総理の本音がわかっているので言葉を継承しないと大変なことになる。明確な言葉を使わないのなら70年談話は出さない方がよい。
Q.ウクライナに2ヶ月いた。実態は日本のメディア報道とは違っていて鳩山氏の言う通りである。けれどもこういう発言を続けるとまた葬られるのでなないか。覚悟はできているか。
A.一度葬られているので二度葬られるのは別に構わない。(会場笑)
Q.沖縄の基地問題について今なら違う対応をとるか。
A.東アジア共同体をつくるべきだということ、辺野古を基地にしたくないという思いは変わらない。沖縄の基地について変化はむしろアメリカ側にあった。米中、米―北朝鮮の状況変化の中で海兵隊を見直そうという動きがあった。辺野古に固執していたら基地はできないと思う。辺野古が必要なのか、移設が必要なのか、どこに移設するのか、もう一度検討しなければならない。辺野古に基地をつくるのは無理だと安倍総理はオバマ大統領に伝えるべきだと思う。ワシントンにある沖縄事務所が今後役割を増していくだろう。
Q.AIIB(アジアインフラ投資銀行)についてはどう思うか。
A.当初から日本は参加すべきだと思っていた。AIIBは唐突な話ではなかった。東南アジアにはインフラのニーズがあり投資が必要だ。陸上シルクロード構想もある。中国と日本が協力する姿を見せると世界は安心する。そしてAIIBに日本が参加すれば中国は喜ぶ、つまり日中関係が好転する。
Q.アメリカの軍産複合体に鳩山さんは攻撃され、安倍さんは歓迎されているのではないか。
A.直接攻撃されたわけではない。政権交代すれば変わると思ったがウィキリークスでも明らかになっている通り、防衛省、外務省の官僚が私をサポートしなかった。官僚トップが鳩山に妥協するなとアメリカにメッセージを送り続けていた。私はアメリカに留学経験がありアメリカは好きな国だ。けれども外交となると話は別だ。汎ヨーロッパ主義からEUが生まれたように東アジア共同体をつくるべきだと主張してきた。スターリンやヒトラーに代表される全体主義に対する考え方として、友愛という思想は革命的アイディアとして世に出た。自由と平等を大切にするが、自由が弱肉強食、平等が悪平等になってはいけない。東アジアには「和を以って貴しとなす」という思想の素地があると思う。
Q.鳩山さんのおっしゃることはわかるが元総理が言うべきことではないという声がある。カーター元大統領、小泉元総理など色々例はあるが、元総理の役割についてどう思うか。
A.私は元総理という名刺を持ち歩いて行動しているわけではないが、元総理の役割はあると思う。カーター元大統領はアメリカと国交のない北朝鮮に行った。民間外交でできることがある。私もイランに行ったら世間から非難を受けた。イランでは原子力の平和利用を訴え日本を見習えと言った。今、アメリカとイランは合意に近づいたのでよかった。おかげ様で元総理だから重要人物に会うこともできる。現政権ができないことをやっている。クリミア行きは官邸の指示ではない。
以上、鳩山元総理は一つ一つ丁寧に答えていました。安倍総理の国会答弁より質問と答えがかみ合っているし、論理的だと思うのは私だけでしょうか。断片的な大手メディアの報道だけだと謎の行動・発言に見えますが、政権寄りの報道ばかりでなくもう少しフェアに伝えられればいいのにと会見に参加して思いました。