日本イコモス国内委員会の岡田保良委員長、石川幹子理事、「神宮外苑の自然と歴史・文化を守る国会議員連盟」の船田元代表が日本外国特派員協会で記者会見を開きました。ちょうど上京中だったので、私も記者会見に出席しました。以下、会見の内容を記します。
<岡田氏>
ICOMOSは世界遺産条約ができる10年前に設立され、全世界で会員は10,000人、日本には500人の個人会員がいる。30ほどの専門分野がある。この十数年で遺産危機警告(ヘリテージアラート)は24回あり、今回の神宮外苑が24番目。通常は建築遺産が多く、公園は稀である。警告の項目は5つある。
1.事業者の三井不動産、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事は直ちに神宮外苑の再開発計画を撤回し、国際的企業、宗教団体、公平公正なスポーツ振興団体として社会的、倫理的責任を果たすこと。
2.東京都は、高層ビルの建築が公園を利用する市民の権利を永遠に奪うものであると認識せよ。再開発計画についての環境影響評価には重大な欠陥があり、実践的な手法で再審査すべきである。
3.明治神宮は、神宮外苑が市民による寄付と奉仕活動によって作られたこと、「美しい公園を永遠に維持する」という約束を理解し、再開発計画から直ちに撤退すること。
4.港区・新宿区・渋谷区は、将来世代のために、神宮外苑の名勝指定に向けて取り組むこと。
5.日本政府は、東京との問題とせず介入すること。
<船田氏>
超党派の議員連盟の会長をしている。自民党の議員がこのような活動に関わるのは珍しい。これまで4回総会を開き、新宿区、港区、文科省、環境省、東京都に申し入れをした。
活動を始めた理由は4つある。
1.東京の自宅が神宮外苑に近く、長く慣れ親しんできた。
2.大学時代、戦前の青年団の研究をした。神宮外苑は100年前に明治天皇を顕彰する目的で全国の青年団が木や石を寄付し、奉仕活動をしてつくられたものである。
3.過剰な開発である。特に問題なのは、ラグビー場と野球場の場所を入れ替えること。これによって樹木の伐採が生じる。今の場所で改修すればよい。
4.ICOMOS警告の第5項目に国が介入せよとある。
<問題点と方策>
- 今回の再開発計画は明治神宮の財政状況が原因だと言われている。神宮内苑を守るために外苑で稼ぐという構図になっている。しかし、どちらかが生き残ればよいという問題ではない。そもそも明治神宮は一切、財政状況を明かさず、オープンな議論が全くない。憲法89条により、公金を宗教法人に支出できないが、クラウドファンディングという方法もある。神宮外苑を守るためにどのくらいの額が必要なのか、そういう話が出てこない。樹木の保全は所有者が申請して指定されるものだが、現在、1本の木も保全対象になっていない。だからといって、明治神宮が3,000本も切ってよいということではない。
- 50年前、鎌倉で鶴岡八幡宮の裏山が破壊されそうになり、購入しようとトラスト運動が起こった。参考にできるのではないか。
- 古都法や都市緑地法が使えないか、いちょう並木を守るために名勝指定ができないかと検討しているが、名勝指定には明治神宮の承認が必要。
- 日本スポーツ振興センターは文科省の外郭団体なので国として働きかける。
- 東京五輪の時、新国立競技場の建設に伴い、霞ヶ丘アパートが立ち退きとなった。これは建設で削除される公園部分を代替する目的があった。今回は3.4ヘクタールも公園を削除し、他で補う案もない。
<会見後の所感>
今回の再開発が3,000本の樹木伐採を伴うこと、ラグビー場と野球場の位置を入れ替えることで余計な伐採が発生すること等、状況がよくわかりました。ICOMOSが警告を発したのは当然でしょう。地球温暖化に直面し、CO2の排出規制や森林による吸収が世界的に議論されている局面で、この伐採計画は到底、受け入れられるものではありません。
私の疑問は、明治天皇を顕彰して作られた森を、なぜ明治神宮が守ろうとしないのか、ということです。神話のふるさと、島根には神社が多くあり、神聖な森もたくさんあります。感覚的に触ってはいけないところと認識しています。神宮内苑は神聖で、外苑は市民によって作られた森だから伐採してもよい、ということにはならないと思います。あくまでも内苑と外苑で一対なのです。
昨今、他界したミュージシャンの坂本龍一氏が遺言のように外苑を守れと言い残し、サザンオールスターズも新曲で思いを引き継いでいます。私は学習院で教育を受けたので、最近「月の桂」という歌が頭の中を巡っています。「代々木の杜に神とます~」で始まるのです。
環境問題や歴史、という視点からも外苑を守らなければと思いますが、それ以前に触ってはいけない、と感覚的に思います。100年前の青年達の思いが込められた大切な森です。
一体、明治神宮は何を考えているんだろう、と理解に苦しんでいます。